気と心 09

「造物主はお前という人間を、人間の世界に生みつけたのは、人間の仕事をさせようがためだ。」
「えッ、」
「人間の仕事をさせようがためだ。」
「人間の仕事って何です。」
「知らないのかい、お前、」
「知りません。」
「知らないのなら言って聞かせよう。お前はこの世に何しに来たか、知らずに今日まで生きて来たのか。いままで、何のために学問をしたんだ。」
「偉くなるためです。」
「偉くなるのは何のためだ。」
「へえ、偉くなったら、人より立派な家に住んで、人より立派な毎日の生活をして、人より幸福な、」
「馬鹿。そういう考え方をしているから、お前は偉くなれねェんだ。人間がこの世に生きた使命というものを知らないんだ。」
「けどね、先生。私は注文して出て来たんじゃありませんよ、この世の中に。ひょいと気がついたら、人間だった。それもはっきり、俺は人間の仲間にはいっているんだなァ、ということに気がついたのは、三つくらいからですよ。」
「お前のような人間が、とにかくこの土地に来てよかったな。来なければ何もわからないで、お前はただ、そのまま、病と組打ちしてからに、この世を終るだけだ。考えろ。人間なにしにこの世へ生まれて来たか。」
 この問題と取っ組んで半年かかった。朝、夜明けから日の暮れまで、十八町一里の、三里ある山奥へ行って、滝壺のわきで坐禅組みながら、「われ、いずこより来り、いずこに行かんとす。何の事情ありて、この現象世界に人間として生れ来しや。」あなた方だったらね。これは決して皮肉で言っているのではない。一ヵ月か二ヵ月で考えるかも知れない。私は半年かかった。何しろ、私のそれまでにやった学問の中には、そんな難しい問題を考える知識要素がないんです。

          




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