気と心 08

 ご参考までに、私がインドで先生に言われたことをお聞かせしましょう。毎日毎日、体の調子が悪いものだから、ついつい、眉に八の字をよせて、笑顔ひとつ出来なかった私にむかって、
「今日はどうだね、」
 ときかれる。
「ええ、今日は頭も痛くありませんし、熱もないんですが、ただ、気が重うござんしてね、」
「気が重いというのは、どういうんだい。」
「それはちょっと説明できませんけれども、とにかく重いんですよ。」
 手に持ったこともない気が、重いように思うんだね。どこもどうもなくでも、笑顔してもいいんだけれども、その笑顔が出来ない。その当時の私はそうでした。(中略)
「俺から見るてェと、お前は世界一の幸福者だ。」
「世界一の幸福者。この私が。ヘッ。こんなにのべつ、八年も熱わずらって、いつなんどき死んじまうかわからないような、危うい病を背負っていながら、世界一の幸福者だとはね、」(中略)
「罰当たりめ。第一、お前は、喜ばねばならないことが一つあるのを忘れている。」
「何です。私が喜ぶことなんてあるでしょうか。」
「ある。」
「ありませんよ。ご親切に連れて来て下すったことは、有難いと言えば有難いけれども、これもお頼みして連れて来て貰ったんじゃない。こんな山の中に、」
「お前、恨んでいるのかい。」
「恨みやしませんがね。有難いことがあるというのが、私にはわからない。」
「あるよ。」
「何です。」
「生きていることだ。」
「えッ、」
「びっくりしたな。お前は死なずに生きているだろうが。熱があろうと、血を吐こうと、生きていることに、なぜ感激しないんだ。」
 私はそれを反対に考えていた。生きているからこそ、この苦しみだ。それじゃ死んでしまえばよかったんだが、死なないんですからね。感謝しなければならないことを感謝しないでいるんだから、有難いとは思いませんよ。罰当たりだったんだな、私は。

          




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